★ 第12回  ★


 4−164 若菜下 冷泉院譲位
 光源氏は、譲位した冷泉院に跡継ぎのいらっしゃらないことを残念に思っている。
 「末の世まではえ伝ふまじかりける御宿世、口惜しく、さうざうしく思せど(密通事件によって、末代までは
皇統を伝えることができない運命を、源氏は残念に寂しく思われるけれども)」

 4−299 「柏木」女三の宮、柏木との不義の子を出産
 「わが世とともに恐ろしと思ひし事の報いなめり、この世にて、かく思ひかけぬことにむかはりぬれば、
後の世の罪もすこしかろみなんや、と思す(自分が常々いつも恐ろしく思っていた罪業の報いがこれな
のであろう。この現世で、このように慮外の応報を承けたのだから、後生の罪も多少は軽くなるのだろうか)」
『往生要集』巻下、大文第十問答料簡の内、第五「臨終の念相」
 「有智の人は、智慧の力を以て、能く地獄極重の業をして現世に軽く受けしむるも、愚痴の人は、現世の軽業
を地獄に重く受く」「愚者は自ら悔ゆることあたはざるが故に、殃わざはひを得ること大きく、智者は悪を昨し
て不当なるを知る故に、日に悔ゆることをなす。故にその罪少なし。」

 5−184 椎本 八の宮の遺言 
 「わが身一つにあらず、過ぎたまひにし、御おもてぶせに、軽々しき心どもつかひたまふな。おぼろけのよす
がならで、人の言にうちなびき、この山里をあくがれたまふな。ただ、かう、人にたがひたる、契り異なる身と
おぼしなして、ここに世を尽くしてむと思ひとりたまへ。ひたぶるに思ひなせば、ことにもあらず過ぎぬる年月
なりけり。まして女は、さるかたに絶え籠もりて、いちじるく、いとほしげなる、よそのもどきを負はざらむな
むよかるべき(私一人のためではなく、亡くなられた身分高い母上の不面目になるから、軽々しい考えをお持ち
になるな。よくよくの縁でなければ、男のことばに浮つき、この山里を離れなさるな。ただもう、かように、他
人とは異なる前世の報いを受けている身と覚悟なさって、この宇治の里に一生を過ごしてしまおうとお思いなさ
い。私は専心にそう思いこんで、何ごともなく過ぎていった年月であったことだ。まして女は、こうした場所に
絶えこもって、目についたり、気の毒がられるような、他人の非難を負わないのがいいことなのだろう)」